所在地 〒192-0919 東京都八王子市七国3-50-2
電話番号 042-632-8188
ホームページ https://www.tokyo-yurikago.ed.jp/
加盟年 2018

2023年度活動報告

活動分野

生物多様性, 気候変動, 環境, 文化多様性, 世界遺産・無形文化遺産・地域の文化財等, 国際理解, 持続可能な生産と消費, 食育

本園では、「調和のとれた教育、幼児の主体性、自然と関わりながら」を教育理念とし、園庭の豊かな自然や周囲の里山林と主体的に関わり、生活や遊びに取り入れ、学びに繋げていこうとする一連の活動を、ESD「里山教育」として位置づけ、実践を通して全人格的な発達を促し、生きる力の基礎を育むことを目標としている。これらは教育課程、年間・月間指導計画によって位置づけられ、「環境を通した教育」及び「主体的、対話的で深い学び」への具体的実践として行われている。
2023年度は、これまでの活動を基礎に更に充実すると共に、他分野へ発展がみられた。本園における多様なESD活動のうち、以下6項目について報告する。

稲作、畑作 (分野:食育、環境、地域の文化財、持続可能な生産と消費)
子どもの森づくり・里山再生 (環境、生物多様性、気候変動、持続可能な生産と消費)
ムササビ等の野生動物の観察活動 (分野:生物多様性、環境、国際理解)
養蚕 (分野:環境、地域の文化財、文化多様性、持続可能な生産と消費)
陶芸 (分野:環境、地域の文化財、文化多様性、持続可能な生産と消費)
ゴミと資源 (分野:環境、生物多様性、気候変動、持続可能な生産と消費)

 

①稲作、畑作
・園内の田畑を使い、野菜、麦、稲を育てる中で、土作りから園児が主体的に関わった。コンポストには、給食の野菜くず、稲作で生じた籾殻や米糠、飼育ヤギの糞、野ウサギの糞、近隣牧場の牛糞などが加わり熟成され、また園内「里山林」の落ち葉は「葉っぱのプール」に集められ、落ち葉遊びを経て腐葉土となる。これらを堆肥として田畑にすき込み、園児と共に土壌を作った。
・畑では園児が種をまき、雨水タンクの雨水や井戸水で潅水し、毎日世話をして育てた野菜、小麦を収穫し、調理保育や給食の材料となった。残った野菜くずは畑の肥やしとなり、食の循環について体験を通して学んだ。
・年長は園庭の棚田で8ヶ月をかけて稲作を行う。1から10までできるだけ園児が自ら行うことで、食の大切さ、汗水流し物事を成すことの大切さを知る。
・田んぼの生き物が棲みやすい環境を整えるため、田んぼ、小川ビオトープの清掃・整備を子ども達と行った。堆積したヘドロを取り除き、その中から様々な水棲生物を救出して戻したり、小川でゲンジボタルの生育を促すため、年長が陶芸粘土の型に使用した石を小川沿いに敷き詰め、コケの生育を促したりすることによって、持続可能なビオトープ環境の維持に努めた。更に日々の生き物採取、飼育、観察等を通して、生命の尊厳とつながりを学んだ。
・脱穀、籾すり、精米作業は、千歯扱き、唐箕、回転足踏み脱穀機などの古農具を使用したり、弥生時代から行われている手作業で行うなど、幼児にとってしくみが理解しやすい原始的手法に特化し、日本古来の稲作について体験を通して知った。
・環境整備や里山保全を行う保護者有志の会「鉄腕クラブ」では、上記の稲作を家族で経験し、田植えから収穫までの感動を家族で味わうことが出来た。「秋祭り」を開催し、全学年と小学生の親子も脱穀を経験することができた。

        

 

子どもの森づくり・里山再生
・周囲の里山林が持続可能であるために、園内外のコナラ、クヌギ等のドングリを拾い、園庭や周囲の緑地帯の各所に「ドングリ畑」を作って育てた。2022年度に続き2023年度も、全国的に流行しているナラ枯れの影響により、本園の里山林「森の広場」において、樹齢50年規模のクヌギやコナラを数本伐採せざるを得ない状況となった。しかし、これまで毎年行ってきたドングリ播種によって、結果として樹木の世代交代を持続可能な形で行うことができ、活動の重要性、必要性を改めて実感することになった。また、園に繋がる八王子市所有の里山を再生するため、八王子市と相談し、萌芽更新が行われた。切り出した原木を使用して低年齢児向けの遊び場を作った。
・東日本大震災の津波で消失した東北の森を再生するため、東北の保育園児が拾ったドングリを送ってもらい、園庭で育て、定植可能な高さまで育った苗を東北に送り植樹してもらった。送り状、礼状等のやりとりにより、心の触れあいも見られた。

 

 

ムササビ等の野生動物の観察活動
今年度も年長の活動として、園庭の森の広場に棲息するムササビの観察と環境作りを行ってきた。また、園児の野生動物への興味が広がったため、NHK「ダーウィンが来た!」の協力の下、動物用のトレイルカメラを園内10箇所に設置したところ、深夜にノウサギ、タヌキ、キツネ、アナグマ、テンが来ていることが分かった。
・歴代の年長が作り設置した巣箱が古くなったため、修復し新たに絵を描き再び設置した。また、ナラ枯れの影響で巣箱があった木を伐採せざるを得なくなったため移設先を考え設置した。
・巣箱内を観察するために設置したカメラの映像を、観察小屋「ムササビハウス」のモニターを通していつでも園児が観察し、そのデータを振り返ったり抽出したりできるようにしたが、さらに2023年度は屋外Wi-Fi環境を整備し、年長の各クラスでもムササビの映像を視聴できるようにした。これによって、晴雨問わずムササビがどの巣箱に何時に戻り、何時に出かけたかを記録しやすくなった。また、巣箱内での暮らしをより詳しく把握できるようになり、世界的にも珍しい出産の様子を観察することができ、愛着を深めることができた。
・一方で、天敵の存在に気づき、保護するための手立てを考え、防護用のトタンや傘などを設置する一方で、ムササビ以外にも様々な生き物がこの森に棲んでいることに気づき、ムササビと同じように家族を持ち一生懸命生きているという事を知り、生物多様性への理解も深まった。
・園児から「海外にもムササビはいるのか?」という疑問があったため、インドネシアの専門家とZoomでつなぎ、その数や特徴などを教えていただいた。赤いムササビがいることを知り衝撃を受け、棲む国が違うと色や大きさも違うことを知った。あわせてインドネシアの様々な生き物を紹介いただいた。
・こうした豊かな経験を通して、ムササビを思う気持ちを表現したくなり、劇を作ることになった。ストーリー、台詞、振り付け、装飾などを子どもが中心となって作り、生活発表会で保護者に披露した。
2022年度より、NHK、八王子市、町田市、ムササビ専門家、中央大学附属中学・高等学校生物部の協力を得て、園内の森だけでなく、隣接の46haの七国相原特別緑地保全地区の森にも巣箱やカメラを設置し、森全体に棲むムササビの数や生態について継続的に調査を行っている。2023年度も年長園児は森の中のムササビが棲んでいそうな場所を散策し、樹洞を探したり巣箱を付けて観察した。
・園児が生き物に関心を持ち、生き物にとって棲みやすい環境を自分事として考え、行動に移していく一連の活動から、「学びに向かう姿勢」や、「持続可能な社会の担い手としての価値判断に繋がる姿勢」が育っていく様子が確認できた。
・こうした活動経験による効果測定を行うため、担任教諭のエピソード記録分析と、保護者への質問紙調査を行ったところ、特に主体性、愛着心、科学性、想像力、自分事化などへの効果が期待できることがわかった。さらには、幼稚園教育要領の「幼児期の終わりまでに育って欲しい10の姿」の中で、健康な心と体、自立心、思考力の芽生え、自然との関わり・生命尊重、言葉による伝え合い、豊かな感性と表現の6項目において特に効果が期待できることが示唆された。本結果は日本生物教育学会第108回大会にて発表した。
・また、全国学校園庭ビオトープコンクールで上記の活動が評価され、ドイツ大使館賞を受賞し、国立博物館ホールで皇室の御前で発表した。その他、ESD-NETグローバル会合フィールド訪問、ユネスコスクール全国大会ポスター発表、東京家政学院大学ホームカミングデーなどで発表した。

             

 

養蚕
例年同様、全学年で蚕を育て、年中児が繭から座繰り器で糸を取り、また繭を使った制作を行い、横浜シルク博物館に展示していただいた。「織物の町」である八王子市の歴史・文化に触れ、蚕を通して生き物への愛着を深め、慈しみの気持ちを育むと共に、命を頂きながら私達の生活に欠かせない衣類や生活用品が作られていることを一連の体験を通して知り、感謝の気持ちを持つことができた。

  

 

陶芸
園の周辺地域一帯は、古代の窯の出土数が国内一であり、良質の粘土が採れるため、園庭の土を掘り起こし、年長が地層を観察しながら粘土として使えそうな土を採取した。これを細かく砕き、川石を型にして皿の形に成形、焚き火にかけ焼成した。普段から泥団子作りなどをして遊んでいる園庭の土が、手間暇を掛けることで皿になっていく過程を楽しみ、関心を深めていく様子が見られた。体験を通して古の文化に触れながら、想像力、創造力を育むことができた。

   

ゴミと資源
身近なゴミの行方を理解し、その減量と資源活用に資するため、年中児が市内清掃事業所を訪問し、幼稚園向けのプログラムを受講した。3Rへの理解も深め、事後活動としてゴミ捨て禁止のポスターを作り、園周辺の森や歩道に設置した。特に野生動物を身近に感じることのできる本園では、「野生動物が棲みやすい森を維持するには」という視点が園児にとって理解しやすく、取り組みが促進された。

  

来年度の活動計画

・これまでの活動を継続、発展させていく。自然を対象とした活動が多いため、環境に関わる中で、興味・関心が年々深まり、園児の「学びに向かう姿勢」が促進されるよう、主体的な関わりを基本としながらも地域や専門的家に定期的にお越しいただき、指導、サポートしていただけるようにする。
・ユネスコスクールを中心に、国内外の幼稚園、学校等と積極的な連携を深め、教職員のESDに対する理解促進、保育の質の向上、園児の交流を図る。
・活動の評価についてはエピソード記録分析や保護者への質問紙調査などを試みたが今後も継続していきたい。また、OMEP日本委員会の評価スケールを利用したESD評価も行っていきたい。
・既存のESDカレンダーと教育課程との関連性を明確にし、教育効果の向上を図る。関係を・ユネスコスクールとしてのESD活動の周知については、今年度、ホームページにユネスコスクール専用ページを設けて積極的に発信できるようにした。同時にSNSでも発信を行っているが、さらに充実させていきたい。

過去の活動報告