2022年度活動報告

本年度の活動内容

活動分野

生物多様性, 環境, 食育, その他の関連分野

本園では、「調和のとれた教育、幼児の主体性、自然と関わりながら」を教育理念とし、園庭の豊かな自然や周囲の里山林と主体的に関わり、生活や遊びに取り入れ、学びに繋げていこうとする一連の活動を、ESD「里山教育」として位置づけ、実践を通して全人格的な発達を促し、生きる力の基礎を育むことを目標としている。これらは教育課程、年間・月間指導計画によって位置づけられ、「環境を通した教育」及び「主体的、対話的で深い学び」への具体的実践として行われている。
2022
年度は、これまでの活動を基礎に、更に充実、発展させることができた。本園における多様なESD活動のうち、以下5項目について報告する。

「食育」、「環境教育」、「伝統文化教育」の活動として「稲作、畑作
「環境教育」の活動として「里山再生
「生物多様性」の活動として「ムササビとの関わり
「環境教育」、「伝統文化教育」の活動として「養蚕
「環境教育」、「伝統文化教育」の活動として「陶芸

稲作、畑作
・園内の田畑を使い、野菜、麦、稲を育てる中で、土作りから園児が主体的に関わった。大きなコンポストには、給食の野菜くず、稲作で生じた籾殻や米糠、飼育ヤギの糞、野ウサギの糞、近隣牧場の牛糞などが加わり熟成され、また園内「里山林」の落ち葉は「葉っぱのプール」に集められ、落ち葉遊びを経て腐葉土となる。これらを堆肥として田畑にすき込み、園児と共に土壌を作った。
・畑では園児が種をまき、雨水タンクの雨水や井戸水で潅水し、毎日世話をして育てた野菜、小麦を収穫し、調理保育や給食の材料となった。残った野菜くずは畑の肥やしとなり、食の循環について体験を通して学んだ。
・年長は園庭の棚田で8ヶ月をかけて稲作を行う。1から10までできるだけ園児が自ら行うことで、食の大切さ、汗水流し物事を成すことの大切さを知る。
・田んぼの生き物が棲みやすい環境を整えるため、田んぼ、小川ビオトープの清掃・整備を子ども達と行った。堆積したヘドロを取り除き、その中から様々な水棲生物を救出して戻したり、小川でゲンジボタルの生育を促すため、年長が陶芸粘土の型に使用した石を小川沿いに敷き詰め、コケの生育を促したりすることによって、持続可能なビオトープ環境の維持に努めた。更に日々の生き物採取、飼育、観察等を通して、生命の尊厳とつながりを学んだ。
・脱穀、籾すり、精米作業は、千歯扱き、唐箕、回転足踏み脱穀機などの古農具を使用したり、弥生時代から行われている手作業で行うなど、幼児にとってしくみが理解しやすい原始的手法に特化し、日本古来の稲作について体験を通して知った。
・環境整備や里山保全を行う有志の会「鉄腕クラブ」では、上記の稲作を家族で経験し、田植えから収穫までの感動を家族で味わうことが出来た。また、新型コロナウィルスの影響で中止していた「秋祭り」を開催し、全学年と小学生の親子も脱穀を経験することができた。

 

子どもの森づくり(里山再生)
・周囲の里山林が持続可能であるために、園内外のコナラ、クヌギ等のドングリを拾い、園庭や周囲の緑地帯の各所に「ドングリ畑」を作って育てた。特に2022年度は、全国的に流行しているナラ枯れの影響により、本園の里山林「森の広場」において、樹齢50年規模のクヌギやコナラを数本伐採せざるを得ない状況となった。しかし、これまで毎年行ってきたドングリ播種によって、結果として樹木の世代交代を持続可能な形で行うことができ、活動の重要性、必要性を改めて実感することになった。また、昨年、一昨年に続き、今年もドングリが豊作であったため、より多くの場所に播種することができた。
・東日本大震災の津波で消失した東北の森を再生するため、東北の保育園児が拾ったドングリを送ってもらい、園庭で育て、定植可能な高さまで育った苗を東北に送り植樹してもらった。送り状、礼状等のやりとりにより、心の触れあいも見られた。

 

 

ムササビとの関わり
今年度も年長の活動として、園庭の森の広場に棲息するムササビの観察と環境作りを行ってきた。
・歴代の年長が作り設置した巣箱が古くなったため、修復し新たに絵を描き再び設置した。また、ナラ枯れの影響で巣箱があった木を伐採せざるを得なくなったため移設先を考え設置した。
・ムササビの専門家から、「冬の間に餌が少なくなる」という事を聞き、ドングリ餌台を作り、拾っておいたドングリを定期的に置くようにしたところ、夜間に食べにくる様子がカメラに映っており、その生態についてさらに深く関心を持つことになった。
2021年度にNHK「ダーウィンが来た!」で設置した巣箱内を観察するためのカメラを、幼稚園で購入したカメラと入れ替え、いつでも園児が巣箱の中を観察し、そのデータを振り返ったり抽出したりできるようにした。これによって、ムササビが巣箱に何時に戻り、何時に出かけるかを毎日記録したり、どの巣箱を使用しているかを記録したりできるようになった。
こうして、ムササビの巣箱内での暮らしをより詳しく把握できるようになり、愛着心、興味、関心、知識が深まると、「もっと知りたい」という知的欲求が促されるようになった。そして、また新たな疑問が生じると、友だちや先生と考えたり、相談し合ったり、専門家に聞いたりして疑問を解消すというアクティブラーニングの好循環が生じ、探求的な学びの基礎を育むことに大いに役立った。
・NHK、八王子市、町田市、ムササビ専門家の協力を得て、園内の森だけで無く、隣接の46haの七国相原特別緑地保全地区の森にも巣箱やカメラを設置し、森全体にどれだけのムササビが棲んでいるか調査し、その生態についても調べることとした。年長園児は森の中のムササビが棲んでいそうな場所を散策し、樹洞を探したり巣箱を付けて観察した。
・天敵の存在に気づき、保護するための手立てを考え、防護用のトタンや粘着テープ、傘、腰蓑などを設置する一方で、ムササビ以外にも様々な生き物がこの森に棲んでいることに気づき、ムササビと同じように家族を持ち一生懸命生きているという事を知り、生物多様性への理解も深まった。
園児が生き物に関心を持ち、生き物にとって棲みやすい環境を自分事として考え、行動に移していく一連の活動から、「学びに向かう姿勢」や、「持続可能な社会の担い手としての価値判断に繋がる姿勢」が育っていく様子が確認できた。

            

 

④養蚕
例年、全学年で蚕を育てているが、昨年度同様、年中児が繭から座繰り器で糸を取り、灯籠を作った。更に新型コロナウィルスの影響で中止していた「秋祭り」を開催し、年中、年長、小学生の親子も糸取りを行うことができた。「織物の町」である八王子市の歴史・文化に触れ、蚕を通して生き物への愛着を深め、慈しみの気持ちを育むと共に、命を頂きながら私達の生活に欠かせない衣類や生活用品が作られていることを一連の体験を通して知り、感謝の気持ちを持つことができた。

 

陶芸
園の周辺地域一帯は、古代の窯の出土数が国内一であり、良質の粘土が採れるため、園庭の土を掘り起こし、年長が地層を観察しながら粘土として使えそうな土を採取した。これを細かく砕き、川石を型にして皿の形に成形、焚き火にかけ焼成した。普段から泥団子作りなどをして遊んでいる園庭の土が、手間暇を掛けることで皿になっていく過程を楽しみ、関心を深めていく様子が見られた。体験を通して古の文化に触れながら、想像力、創造力を育むことができた。

 

 

 

 

来年度の活動計画

・2023年度も、これまでの活動を継続、発展させていく。 特に5項目の活動については、自然や生き物を対象としているために、興味関心が年々深まり、園児の「学びに向かう姿勢」がさらに促進されるよう、主体的な関わりを基本としながらも、地域や専門的な立場の方に定期的にお越しいただき、指導、サポートしていただけるようにする
・幼稚園、学校等との積極的な連携を深め、教職員のESDに対する理解促進、幼児教育の質向上を図る。
・ユネスコスクールとしてのESD活動の周知についても、ホームページやSNSも活用しながら積極的に行う。