2022年度活動報告

本年度の活動内容

活動分野

生物多様性, 環境, 文化多様性, 世界遺産・無形文化遺産・地域の文化財等, 国際理解, 平和, 貧困

1.はじめに

資料1 育成したい8つの資質・能力

 本校がある地域「おくの」は、自然豊かで歴史のある地域である。そして本校は、コミュニティ・スクールとして、学校運営協議会を中心とした地域に支えられている。この恵まれた自然環境と地域人材を活かし、「地域と共に本校の子供達を育てること」を核としESDを推進することで、本校児童生徒の「育成したい8つの資質・能力」(資料1)を高め、本校が目指す児童生徒像「おくのを知り、おくのに貢献する児童生徒」(本校グランドデザインより)、つまり持続可能な社会の創り手を育成することをねらいとしている。

(1)「総合的な学習の時間」における単元「ふるさとおくの」を柱としたESD

本校は、ユネスコスクールであった小・中学校が統合し、義務教育学校として令和2年度に開校した。総合的な学習の時間を柱とした9年間の系統的なESDの推進を重点に置き、教育活動を進めている。そして、その中心単元が「ふるさとおくの」であり、その活動の中で特に大事にしているのが「Think globally、Act locally」の理念である。前期課程1・2年では自然体験を、3・4年では自然への気付きを大切にし、5年からは海外の学校との交流を通して、地球規模の問題について考えたり、自分の国や地域と比較したりして、視野を広げていく。そして後期課程7年からは、自分達の住む地域おくのへと視点を戻し、大切なおくのの課題を見出し、地域の一員として何ができるのか考え、行動へと移していく。これら一連の活動を通して、児童生徒の資質・能力を高め、将来このおくのを支え、おくのに貢献し、さらには持続可能な社会の創り手の育成へとつなげていくことを目指している。

(2)「つなぐ」を大切にした学校教育全体に広がるESD

9年間のカリキュラムを系統的なESDの柱で1本太くつなぎ、効果的なカリキュラム・マネジメントを学校全体で意識して行った。同時に、教職員だけでなく、学校運営協議会を中心とした地域の人的・物的資源とのつながりを大切にしていくことで、一層の児童生徒の資質・能力の向上を目指した。そして、委員会活動や学校行事など、さまざまな教育活動へとつなげていくことで、本校の教育活動全体にESDが広がり、根付いていくことを目指している。

 

2.実践内容

(1)「地域と共に子どもを育てる」、地域に支えられたESD

資料2 学校運営協議会での学校経営の校長のプレゼンの様子

本校のESDは、学校運営協議会をはじめ地域による人的・物的支援に支えられている。しかし、それらの多くがイベント的・単発的なものであり、児童生徒の資質・能力を確実に高めていくためには、地域の方達にも本校の「ESD推進のねらいの理解・共有が重要」であるとして、令和3年度末の学校運営協議会で、令和4年度の教育活動に向けて改善を図った。手立てとして、学校長が「共に子どもを育てていきたい」と説明し、その後、教頭が資料2のように視覚的カリキュラム表の説明を行い、各学年の教育活動の共有を行った。その後、「子どもにどんな力をつけさせたいのか」と各学年主任と地域の方と令和4年度に向けた人的・物的体制について話合いが行われた。その後も定期的に見直し、改善を行っている。

 

(2)各学年のESD取組の実践(一部)

①前期課程1、2年・・・おくのの自然を感じる

本校のESDのスタートとして、1、2年生は、おくのの豊かな自然に十分に触れ、1年間を通して様々な活動を通して、自然を感じる学習を行う。

資料3 おくの校庭虫マップ

【1年生 生活科「いきものとなかよし」】

校庭で虫探しを行った。まず、校庭の地図に、これまでの経験をもとに、虫のいそうな場所を書き込み、予想を立てた。実際の虫探しでは、予想を立てた場所だけでなく、活動範囲を広げ、夢中になって虫を探し、バッタ、トンボ、チョウなど様々な昆虫を見つけることができた。そして、虫のすみかを作り飼い、虫の様子を観察し、分かったことを伝え合った。最後には、大きな校庭の地図に、見つけた虫をかいたカードを全員が貼っていき、「おくの校庭虫マップ」(資料3)を作成した。完成した地図を見た子供たちは、おくのの自然の豊かさにあらためて気付くとともに、大切にしていこうという思いをもったようだった。

 

 

 

【2年生 生活科「おくのの森探検」】

資料4 おくのの森づくり

生活科の時間に、学校の近くにあるヤマユリの林に探検に行き、地域に住む桜井さんが、ヤマユリを育てる活動をし、奥野の自然を大切に守っていること知った。そこで、自分たちも地域の自然や生き物を大切にするため、おくのの森を作ったり、森に住むんでほしい生き物づくりを行ったりした。思い思いの昆虫や動物を作り、地域を大切にしたいという思いや願いを高めた。

 

 

 

②前期課程3、4年・・・身のまわりの自然への気付き、様々な関連性、SDGsの基礎的な学習

【3年生「発見!おくのの自然」】

資料5 新しいビオトープづくりのプレゼンの様子

学校やおくのの自然を観察する中で、北校舎のビオトープが荒れていることに気付いた。そこで、「ビオトープ」について調べたり、校区内の古民家にあるビオトープを観察したりすることで、自分たちの学校のビオトープも本来の生き物のつながりがあるものにしていきたいと思いを強くした。その後、子どもたちはアサザ基金さんにアドバイスをもらいながら、様々な視点からビオトープ再生プランを考え、資料5のように校長先生にプレゼンし、実際にビオトープを皆でつくった。この活動を通して、SDGsの17の目標とのつながりにも思考を広げている児童もたくさん見られた。

 

 

【4年生「守れ!おくのの自然」】

資料6 おくのの森観察

学校の近くにある山ゆりの会の方が管理している森で、年間を通して自然観察を行った(資料6)。森にヤマユリの球根を植える活動を行った。すぐに咲く花ではないため子どもたちも成長を楽しみにしながら植えていた。山ゆりの会の方々から、ユリをはじめとする森の動植物について自然観察の中で教えていただいていた。動植物に対する知識を深めることができた。自然を守るために自分たちにできる活動を考え実行していこうという意欲を高めた。

 

 

 

③前期課程5、6年・・・地域のくらし、課題を地域と共有・提案、そして海外との協働学習へ

 【5年生 守れ!おくのの歴史】

資料7 地域探検

地域の方から話を聞き、奥野地区には歴史的に貴重な寺や神社、伝統的な行事があることを知った。しかし、人口減少・過疎化により、それらを守り、継承していくにはどうしたらよいかという課題意識をもった。市文化芸術課や地域の方との歴史探検を通して、「守り受け継いでいくために、自分たちができることは何か」というテーマのもと、アイデアを出し合いながら活動を進めているところである。(資料7)

 

 

 

【6年生 アートマイル国際協働学習 】

資料8 インドとの交流(県教育委員会広報誌より)

6年生は、アートマイル国際協働学習に参加しており、2022年度はインドの学校と交流を行った。交流では、お互いの国や生活している地域の課題について共有し、持続可能な社会を作り上げていくためにはどうすればよいかを一緒に考えた。交流が進む中で、インドは人口過多、日本は人口減少の問題を抱えており、どちらの問題も持続可能な社会の実現には重要なテーマであると捉えた。交流における話し合いの上、持続可能な社会の実現に向けての思いをメッセージとして込め、協働で壁画を作成しているところである。(資料8)

 

 

④後期課程7~9年・・・課題を地域と共有・提案、地域社会との協働、持続可能な社会の担い手へ

【7~9年 後期課程学校行事「歩く会」】

資料9 後期課程学校行事「歩く会」の様子

後期課程では「Act locally」へと視点を戻し、「SDGs目標11住み続けられるまちづくりを」につなげた学習を進めていく。まず、後期課程学校行事「歩く会」(資料9)で、前期課程までに培った資質・能力を生かし、そして地域の方と共に改めて地域「おくの」を歩き、地域の課題を明らかにしていく活動を行った。

 

 

 

【7年生 ふるさと奥野に学ぶ 】

資料10 耕作放棄地について航空写真を使ってプレゼンする様子

帰校後、早速気付きを分類すると、大きく「太陽光発電」「耕作放棄地」「ゴミ問題」「空き家」「農作物」などがあげられたが、「重要性」と「実現性」の2軸でフレームワークを行った結果、「耕作放棄地」に対して探究課題を設定した。そして、世界的・全国的な視点から耕作放棄地について調べたり考えたりした後、実際の奥野地区の現状について視点を戻し、調査対象を「市役所の専門部門」「農協」「農家」、「市の統計データ」「航空写真や地図」の5つに絞りグループごとに学習を進めた。さらに、地域の農家の方や農協、市役所の方などから、多様な視点や考えを得られた。最終課題を「耕作放棄地に対して中学生の自分達が生活の中で継続的に取り組めることは何か」として、現在活動を進めているところである。(資料10)

 

 

(4)本校のESDを支える国際教育・英語教育

  ユネスコスクールとして、「Think globally、Act locally」の理念のもとESDを推進するためには、国際教育・英語教育も重要である。したがって、本校では、次のような教育活動も推進している。

①前期課程 イングリッシュタイム

前期課程では、英語に慣れ親しむことができるよう、英語の授業とは別に週2~3回イングリッシュタイムを設定している。これは、地域ボランティアの方の支援によるものである。

②1、2年 ワールドキャラバン国際理解教育

本年度は、講師として、スリランカとインド出身の2人を講師として行われた。それぞれの国の文化や生活について理解したり、海外への関心を高めたりしていた。

③3、4年 JICA筑波国際協力出前講座

本年度は、JICAからスリランカ派遣経験のある方を講師として招き行われた。世界は様々な文化や生活、思考があることや、世界が抱える問題や国際協力について考えを深めることができた。

④4年から海外との交流スタート

児童生徒が世界的な視野で物事を捉えることができるように、2015年度より、海外の学校と交流を行っている。現在は4年が台湾、6年がインド、7年が台湾、8年がインドネシア、9年がポーランドの学校と交流を進めている。

⑤4年生 テディベアプロジェクト

台湾の学校とお互いの国で自己紹介のビデオを作成し、送り合った。動画を送る際に自分のプロフィールが相手に見えるようにカードを作成した。共通言語である英語を用いて作成した。英語に親しみながら活動を行った。また、簡単な学校の紹介の動画を送った。交換したぬいぐるみを様々な生活の中に連れ写真の交換を通してお互いの文化について触れ合うことができた。子どもたちも異文化に興味をもち、自分たちとの生活の違いについて考えていた。自分自身がいいなと感じることや大変そうだなと感じるところなど異文化に触れ、考えを深めることができた。 

⑥8年生 ブリティッシュヒルズ外国語研修

資料11 ブリティッシュヒルズ外国語研修

 福島県にある「ブリティッシュヒルズ」において、外国語宿泊研修が行われた。英国の建築様式や生活様式、調度品にふれ、本物を見たり実体験したりすることを通して異文化理解を深めた。そして、英国圏の外国人講師や現地スタッフとの英語による日常会話やレッスンを通して、言語活用・運用能力の向上を図った。(資料11)

⑦ 9年生 ポーランドと共生社会について考える

9年生は、ポーランドのヴロツワフ第16小学校との交流を進めている。夏休み前からお互いの学校や教育活動の紹介等を行った。現在は、「共生」というテーマで交流を深めていこうと取り組んでいる。これまでの本校での学習活動や9年社会科公民での学習内容を踏まえて、将来、世界が共生していくためにどのようにしていけばよいのか、またそのための問題点は何なのか等、自分達の考えをまとめ、それをもとに今後交流を進めているところである。義務教育を終えようとしている9年生が、これまで海外の学校と交流で培ってきた視野の広さや見方・考え方を生かし、交流を深めていくことで、将来の持続可能な担い手の育成へとつなげていきたい。

 

(5)教職員研修の充実

【年度始め SDGs研修、本校の総合的な学習の時間研修】

 年度始めには、新しく本校に赴任した教職員に対して、そして1年間を通してどのようにESDを推進していくのか確認の意味も含めて、ESD・SDGs研修を行っている。学校全体についてだけでなく、学年ごとにも学年主任を中心に方針や流れを確認している。

【夏期研修 カリキュラム・マネジメント研修】

資料12 教職員カリキュラム・マネジメント研修

夏期研修では、資料12のように、カリキュラム・マネジメント研修において、全教員でカリマネの意義や有用性を確認し、実際に視覚的カリキュラム表をもとにカリキュラム・マネジメントの可能性の見直しを行っている。そして、本校が推進しているSDGsに関する取組も視覚的に見える化することで、9年間の系統的な学びがより効果的になるように、カリキュラム表にSDGsアイコンシールを貼る活動も行った。各学年・各教科だけでなく、学校全体で教育活動のSDGsの関連性の確認により、ESDの取組をさらに充実させていくことを目指している。

 

4.成果と課題

(1)保護者学校評価アンケートより

資料13児童生徒アンケート結果

資料13の児童生徒アンケート質問1~4については、88%以上であり、多くの子どもたちが本校がユネスコスクールであることを理解し、SDGsに関する学習活動積極的に行っていることがわかる。また、それらは、コミュニティ・スクールである本校の地域の方々との連携・協働に支えられているものであり、また、「環境郷土教育」・「国際教育」・「英語教育」の三つの柱が相互に関係付けられた教育活動であることがわかる。さらに、質問5については86.7%であることから、本校のユネスコスクールとしての一連の取組が持続可能な社会の担い手の育成というESDの目的をある程度達成していると捉えることができると考える。

 

(2)保護者学校評価アンケートより

資料14学校評価アンケート結果

一方、資料14の保護者アンケート質問1~4の結果から、保護者に85%以上と一定の評価が得られていることがわかる。しかし、5については50.5%で課題ではあるが、昨年度に比べ4.8%上昇していること、児童生徒アンケートの5については、86.7%であることから、SDGsの視点での取組が学校の教育活動の中でとどまっており、家庭へはつながっていない部分が少なくないことが分かる。今後も継続した活動を進めていき、児童生徒の高めたい8つの資質・能力⑧を高めていきたい。今後も、これらの成果と結果を生かし、児童生徒の高めたい8つ資質・能力の向上を目指し、地域と連携を重ねながら、本校のESD・SDGsの取組の改善を続けていきたい。

 

 

(3)教職員アンケートより

資料15教職員アンケート結果

資料15の結果より、教職員の意識もこのように高いことがわかる。これは、年間を通した研修や学校運営協議会を中心とした地域住民との学校経営ビジョンの共有、その上で「子どもを共に育てる」ことを目指した授業づくりを継続している結果だと考える。今後も、地域・保護者と連携・協働し、子供たちが将来、持続可能な社会の担い手へと育成を目指し、地域ぐるみでのユネスコスクールとしての取組を継続していきたい。

来年度の活動計画

現在、2023年度に向けて、教育課程検討部会のESD・総合的な学習の時間部会において、2022年度の教育活動の見直し・改善を行っているところである。検討部会では、本校のユネスコスクールとしての3つの柱の中の「英語教育」「国際教育」について、9年間の系統性やより子供の資質・能力を高めるための活動の在り方、そしてそれを支える教職員・地域・保護者との関係性の見直しについて特に見直し・改善を行っている。また、2月にはユネスコスクール関する児童生徒・保護者・教職員へのアンケートの実施予定、そして、2023年2月下旬の本年度最後の学校運営協議会では、次年度の教育活動について、1~9年全学年主任と、地域・保護者との話し合いを行う予定になっている。これらの生かし、本校の一連のユネスコスクールとしての教育活動をよりよいものに改善し、児童生徒の資質・能力を高め、持続可能な社会の担い手を育成していきたい。