2022年度活動報告

本年度の活動内容

活動分野

生物多様性, 海洋, 減災・防災, 気候変動, エネルギー, 環境, 文化多様性, 世界遺産・無形文化遺産・地域の文化財等, 国際理解, 平和, 人権, ジェンダー平等, 福祉, 持続可能な生産と消費, 健康, 食育, 貧困, ジオパーク, グローバル・シチズンシップ教育(GCED)

自由の森学園遠景

自由の森学園の遠景です。小高い丘の上にあり、名栗(入間)川のほとりにあり、対岸には飯能第二小学校があります。

本学園は「点数によらない評価、競争を廃した教育」を掲げ、それを求めて県内・県外を問わず様々な地域から生徒が通っているが、学園が立地する「飯能」の里山・森林地域の文化と環境に関わることで、自分の住む地域社会の持続可能なあり方、更には国際社会全体の持続可能性を考え、地球市民および平和と非暴力の文化、自立して行動する認識と姿勢を育てることを目標としている。また、異文化を学ぶ入り口として、高校の選択講座では、スペイン語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、韓国語、中国語などの語学講座や、外国の文化そのものを学ぶ講座など開講している。韓国のサンマウル高校とは2014年より姉妹校提携を結び、毎年交換留学等を実施し、今年度はオンラインで現地と結び交流を重ね、2023年1月に韓国スタディーツアーを実施した。異文化学習および文化の多様性と文化遺産の尊重について体験的に学んでいる。

https://www.jiyunomori.ac.jp/gakuen/teikei.php

 

一昨年より、学園寮の重油ボイラーを木質バイオマスボイラーに切り替え、地域で出る産業端材(廃材木)をエネルギーとして利用し、地域と繋がり、生徒が環境について感じ、学べる場所の象徴として運用を始めた。

高校の選択講座「サステナ・ラボ」でバイオマスボイラーの見学をしている様子

高校の選択講座「サステナ・ラボ」でバイオマスボイラーの見学をしている様子

運用より1年を迎え、運用当初のいくつかの問題を乗り越え、今では木質ボイラーを見学に来校する方もいるほどになっている。この木質バイオマスの利用、取り組みは、飯能木質バイオマスエネルギー協議会(http://hanno-biomass.com)との共同運用となっており、学校の枠組みを越えた地域の持続可能なエネルギー利用について発信する場になっていくことを期待する。

 

また昨年度、公用車の1台をBDF(再生天ぷら油)車両に切り替えたことに加え、もう一台の公用車もBDF車両に切り替えた。学園内では「天ぷらカー」として広く知られ、校外学習やスタディーツアーなどは、その車両を使用し、カーボンニュートラル、持続可能な開発および持続可能なライフスタイルを目指している。

BDF燃料

再生天ぷら油からつくられるBDF燃料

BDF燃料を生徒が「天ぷらカー」に給油をしています。

 

自由の森学園のESDに関する活動について

①中学では総合学習の時間に「森の時間」という名前を冠し、飯能地域全体を学ぶ場として様々な活動的な授業を行い、②高校では3年間で誰もが選択できる選択授業としてESDに関わる授業を多く開講している。また、③学内の食堂は、徹底した手作り、安全な食材の使用、地域の食材の使用にこだわっており、自分達の口に入るものがどう作られているかを知ることがESDの役目を果たしている。④公開教育研究会では、自由の森学園での ESDの始まりと、これまでのESDのあゆみについて報告検討会を行なった。自由の森学園が「SDGs/ESDとどう向き合っているか」については、昨年のオンラインでの公開教育研究会で作成した動画内(https://youtu.be/ulXYTHiLiWQ)で、学園で取り組むSDGs/ESDについて紹介していますので、ぜひそちらもご覧ください。

 

① 中学総合学習「森の時間」の活動

3年間のテーマ「稲作・地域のフィールドワーク ~そして林業・ナイトウォークへ。地域学びの集大成、沖縄修学旅行へ」

1年次は、種もみまきをし、田んぼに苗を植え、稲を育てた。同時に、1年生、2年生が共に協力して行う異学年交流の場として、田んぼづくりに取り組んだ。収穫した米で餅をつく収穫祭の準備をしている。飯能地域の街歩きなどのフィールドワークから始め、地域の昔からの産業である「林業」に関係するものを発見することからスタートして、今後学園に隣接した人工林で間伐体験も行う予定である。「林業」という産業の持つ持続可能性、そして一度自然に手を入れたらその後も手を入れ続ける必要があること、生物多様性などを学ぶ。木材を入間川に流し江戸に送っていた、筏師の営みを追体験をするナイトウォークの準備を始めている。卒業までに入間川と同じ距離の、74kmを歩き切ることを目標にしている。

自由の森学園中学校の田んぼづくり

自由の森学園中学校の田んぼづくり

2年次には、1年間を通して田んぼでの米づくりを進めながら、江戸時代に木材を筏で流した川沿いを上流からスタートして学校に向かって歩く6時間のロングデイウォークを行うことをメインとして準備を進めている。その過程で、「地域を歩くことで地域を知る」をテーマに、名栗の子の権現、竹寺を歩き、準備を重ねた。以前行なっていたナイトウォークは伐り出した材木を筏にし、それに乗って名栗川を下った職人が帰りに実際に歩いた道のりの追体験でもある。夕方から夜間に歩くことでホタルやシカなど、山間地域ならではの野生生物に出会える体験でもあったが、新型コロナの影響もあり、宿泊を伴わないロングデイウォークに変更し、名栗から学校に向かって降ってくるプランに変更した。昨年行なったデイウォークでは、様々な変更を余儀なくされたが、ゴール付近では夜となるため、学校での感動的なゴールとなった。今年もそれに期待している。後期は、3年次に向けた修学旅行づくりが始まる。

自由の森中学田んぼ収穫

自由の森中学田んぼ 収穫の日

 

3年次には、2年次後期からつくり始めた修学旅行の実施である。修学旅行はプランが決まっているわけではなく、これまでの「地域をよく見て、自分で歩き、考える活動」の延長、地続きの学びとして捉え、生徒がどんな沖縄に出会うか?出会いたいか?を自分たちで決める旅づくりになっている。自分の立っている足元が沖縄の地に変わった時、どんな出会いや学びをつくって行きたいかについて、半年以上かけてつくっている。今年は、沖縄の海に出会う(座間味島)、沖縄のひとに出会う・民泊(伊是名島)、沖縄の自然・文化と出会う(名護ヌーハの浜)の3コースが立ち上がった。修学旅行の後半は、ガマ(鍾乳洞)や基地、佐喜真美術館、ひめゆり資料館等を訪れる平和学習を行っている。旅の終わりの平和祈念公園では、「島唄」の合唱を行なった。授業のカリキュラムとして、修学旅行を教材化し、日本語(国語)、英語、社会、音楽、体育、人間生活科(家庭科)、理科等の教科が横断的に沖縄に関する授業を実施し(下図参照)、約半年間の事前学習を行い出発している。旅を終えた後、下級生に向けた修学旅行報告会を行い、旅で出会った事、体験等を伝える機会をつくった。後期の終わりは、3年間のESDの取り組みを元に、生徒が様々なテーマについて探求し発表を行うテーマ学習に取り組んでいる。

自由の森学園中学校 教科の枠を越え多面的に学ぶ修学旅行の事前学習

自由の森学園中学校 教科の枠を越え多面的・多角的に学ぶ修学旅行の事前学習

 

 

自由の森学園中学の修学旅行。沖縄の海と出会う(座間味島)

自由の森学園中学校の修学旅行 沖縄の海と出会う(座間味島)

自由の森学園中学の修学旅行。沖縄の人に出会う民泊(伊是名島)

自由の森学園中学校の修学旅行 沖縄の人に出会う・民泊(伊是名島)

自由の森学園中学の修学旅行。沖縄の自然・文化出会う(名護ヌーハの浜)

自由の森学園中学校の修学旅行 沖縄の自然・文化出会う(名護ヌーハの浜)

自由の森学園中学の修学旅行。平和祈念公園での「島唄」合唱

自由の森学園中学校の修学旅行 平和祈念公園での「島唄」合唱

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/ESD%20中学森の時間

 

② 高校での選択授業の活動

○小岩井生態学(理科)

理科・生物学的な視点で、飯能地域の森林、農地、市街地を含む空間の生態系を調査、データ収集を行った。自然環境の再生や保全、生物多様性、外来生物、持続的な資源管理について学び、発信することを目指す。今年も、生きものにひたすら出会うスタディーツアーin西表島を計画し、10月はコロナ事情により延期となってしまったが、2月に実施する。

自由の森学園 小岩井生態学(地域生態学)

自由の森学園 選択 小岩井生態学(地域生態学)

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/ESD%20小岩井生態学%EF%BC%88地域生態学%EF%BC%89

 

○林業講座(総合)

学園周辺の民有林を借りて間伐などの作業を中心に、森林とその生態系、産業としての林業に関する諸問題を学ぶ講座である。自然科学、社会科学、労働、地域という4つの視角で森林を考えることを目指した。今年は、2年ぶりに3泊4日の白神山地スタディーツアーを行なった。期間中、全日野営をし普段関東では出会わないブナの原生林に囲まれる貴重な経験となった。

自由の森学園 選択林業講座

自由の森学園 選択 林業講座

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○サステナ・ラボ(総合)※今年度新設

ところで、Sustainableって、どういうことだろう?自分の生活とどう関係しているのだろう?自分に何ができるのだろう?

そんな疑問をスタートとして、この講座では①社会·世界でおこっている様々な課題を構造的に学ぶ②“Sustainable”な社会の実現に向けて、知識や想いの共有にとどまらず、実際に行動を起こしていくというテーマのもと、「わたしを、わたし達の学校を、地域を、社会を変える」小さな挑戦を重ねている。ワークショップ、ゲストを招いてのお話、見学·体験、スタディツアー、そして協働活動を通して考え深め、発信している。

自由の森学園 選択サステナ・ラボ

自由の森学園 選択 サステナ・ラボ

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○ベンチをつくる(木工 美術)

中禅寺湖にあるホテルの庭で風倒木となった木を預かり、それを製材しベンチにつくり変え、また元の森に返しゆっくりと朽ちていく。朽ちゆく木にもう一度、人が触れ合う時間と場所をつくりだし繋げる講座。

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search?q=ベンチ

 

○選択講座「自然」(理科)

学内のビオトープのデザインと修復作業、学園の自然マップの作成、学校林の管理とシイタケ栽培、ミツバチの飼育と観察などを行い、「自然と人間」について考える講座である。現在は、ツリーハウスの補修再建を行なっている。

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/ESD%20土曜自然(学校自然)

 

○環境学(公民科)

小川町風土活用センター生ごみ資源化バイオマスプラント、西川地域木質資源活用センター(ペレット燃料工場)、群馬県上野村バイオマス発電所などを訪問し、エネルギーの観点から、日本と世界の環境について学ぶ講座である。校内にキエーロを設置し、学園食堂で出た生ごみ等を処理し、体験的に学んでいる。

自由の森学園 選択 環境学

自由の森学園 選択 環境学

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○韓国講座(総合)

韓国は日本に距離的にも一番近くにある外国です。共通する文化や歴史もあり、違う文化もあります。韓国の高校生と仲良くなるために、毎年夏休みに1週間韓国にスタディーツアーに行っていました。コロナ禍でここ2年間行けませんでしたが、今年はズームを軸にした交流を重ね、念願叶って韓国スタディーツアーを実施することができました。都内のコリアンタウンでの研修、宿泊をともなった県外研修も行いました。

自由の森学園 選択韓国講座

自由の森学園 選択韓国講座

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/ESD%20韓国講座

 

○飯能地域研究(公民科)

飯能市を調査し、更にそれを外部に向かって発信することを目標とする講座。今年度は『ロゲイニング』というゲーム形式を用いたツアーを生徒が企画し、子供から大人までを招いて飯能の町を知ってもらう機会である。夏と冬の年2回行った。飯能市が企画をして、飯能市の魅力を伝えるプランを公募する「プランニングコンテスト」に参加し、その活動は地域の新聞にも掲載された。

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/2019/01/blog-post_69.html

 

○福祉の現場へ(公民)

福祉施設でのボランティア活動や岩手県釜石市の仮設住宅、学園食堂と関わりのあった福島の農家さんのところへのボランティア、スタディーツアーを行った。

自由の森学園 選択 福祉の現場へ

自由の森学園 選択 福祉の現場へ

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/ESD%20福祉の現場へ

 

○タネ(理科)

近年出回っている「F1品種」と「固定種」の違いを学び、「固定種」の種から大根、ナス、トマトなどを育てる。固定種からは継続的にタネが収穫でき、そのタネが次年度の講座の教材となる。地域の畑をお借りし、体験的に学んでいる。

自由の森学園 選択 タネ

自由の森学園 選択 タネ

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○東北と復興(地理、現代社会)※今年度新設

改めて「復興」とは何かということを1年かけてともに考えている。災害後の時期によって「復興」の形は変わります。「復興」のために必要なことは何か、自分達に出来ることは何か、ということを探っていく経験を通して、自分たちの身の回りの困っている人や困っていることにも目を向け、現地に出かけます。

自由の森学園 選択 東北と復興

自由の森学園 選択 東北と復興

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/ESD%20東北と復興

 

○日本の芸能(体育)

高校3年生日本の芸能では、昨年高校2年生の必修体育の授業で踊った岩崎鬼剣舞(一番庭)の授業の中ではできなかったデコ踊り、引っ込みに取り組み、岩崎鬼剣舞の一番庭を全て通して踊れるようになり、新たにもう一つ岩崎鬼剣舞の演目に取り組んでいる。 また、夏休みの期間を利用して、日本三大盆踊りの一つ、郡上踊りの地、岐阜県郡上八幡を訪れ、日本の芸能を生で体験しました。 

自由の森学園 選択 日本の芸能 郡上おどり

自由の森学園 選択 日本の芸能 郡上おどり

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/選択日本の芸能

 

 

③ 学園食堂の活動

食事に使う全ての出汁は、毎日早朝から昆布から煮出したり、パンは小麦粉を捏ねて食堂内で焼くほど、すべての食事を徹底して手作りしている。減農薬の野菜、抗生物質を使用しない食肉の使用、地域の食材の使用にもこだわり、また生ごみは敷地内のコンポテストで完全処理している。また、食堂で使用済みの天ぷら油は、食堂内で使う石鹸やBDF車両に用いている。

自由の森学園 食生活部(食堂)のパン

自由の森学園の食堂内で焼き上げる手作りパン

https://jiyunomori-nikki.blogspot.com/search/label/ESD%20食生活

 

 

④自由の森学園での ESDの始まりと、これまでのESDのあゆみについて

埼玉県飯能市に1985年に開校した自由の森学園中学高等学校。独自の教育理念をもち、豊かな自然環境を活かした環境教育を積極的に実践してきました。2017年にユネスコスクールに加盟を認められました。

開校以来、毎年秋に公開教育研究会を開催し、教育研究者や市民の方々を学園に招き学園の教育を開き、研究研鑽を積んで参りました。今年度は、自由の森学園での ESDの始まりと、これまでのESDのあゆみについて報告と検討を行いました。また、「自由の森学園は、SDGs/ESDとどう向き合っているか」をテーマについて動画で配信中です。学園が行っている実践の紹介や、実践家との対話など多角的にご覧いただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=ulXYTHiLiWQ

自由の森学園公開教育研究会ESD展示パネル

自由の森学園公開教育研究会 ESD展示パネルの一部

 

来年度の活動計画

今年は昨年より活動の制限が緩和されたこともあり、コロナ禍以前に近いような体験、経験を生徒たちと工夫しながら実践することができた。昨年の制約の中で生まれたアイディア、工夫も生かし、これまで以上に充実した実践になったものもあった。また、中学では沖縄本島への修学旅行、高校では宿泊をともなう遠方、長期のスタディーツアーも実施することができた。実施には細心の配慮を必要とする難しい運営となったが、それに参加した生徒たちの変化を目の当たりにし、事前に学びを深め、旅や体験を通して自分の立ち位置を変化させる学びの実践、「think globally, act locally」を実感することができた。来年度は、それらのことも踏まえ、日常でのESD、制限していたスタディーツアーを立ち上げ、新たな実践を探求していきたい。しかし昨年、一昨年も断念した、マレーシア・ボルネオでの海外スタディーツアーはいまだに先行き不透明なままである。現地のユネスコスクールのアーメダシャー高校とは今も定期的に連絡を取りつつ、開催までの準備をゆっくりと進めているところである。また、20年ほど前から隔年で開催していた、カナダへ2週間滞在する、「Study abroad」スタディーツアーについても、慎重に準備を進めているところである。

https://www.jiyunomori.ac.jp/gakuen/taiken/taiken_vol2.php

ボルネオ教育長長官、サバ州の校長と交流の様子。

ボルネオ教育長長官、サバ州の校長と交流の様子。