2022年度活動報告

本年度の活動内容

活動分野

生物多様性, 海洋, 減災・防災, 気候変動, エネルギー, 環境, 世界遺産・無形文化遺産・地域の文化財等, 国際理解, 平和, 福祉, 持続可能な生産と消費, 食育

本校では,「食」を通して地域を見つめ,持続可能なふるさと階上の未来を描く児童の育成を図るために,気仙沼市のスローフード都市宣言のもと,2002年に「階上小学校スローフード宣言」を行い,全学年が「食」についての課題を見付け,地域と関わりながら系統的に学習してきた。また2011年の東日本大震災を契機に「防災・減災教育」が,2015年より「海洋教育」の領域が新たに加わり,持続可能な気仙沼・階上を担う人材の育成を目指し,「自然環境」「食」「防災・減災」などを柱に,総合的な学習の時間を柱に,体験活動を生かしながら地域と連携して学習活動に取り組んできた。 気仙沼市や階上地区の豊かな自然や食,暮らしについて,「スローフード」「海洋教育」「防災教育」などを通し,課題解決的な地域学習を実施している。

これらの学習は,公民館のプラットフォーム事業と連携し,保育所・中学校・高等学校との異校種間交流を図りながら実施することで,開かれた地域内外のネットワークづくりに寄与し,地域と学校双方の発展にもつながることを目指している。

こうした体験・課題解決型,探究型の地域学習を,ユネスコスクールが重点的に取り組む3つの分野の実現に向けて一人一人が課題を設定し,解決方法を考える探究的な学習活動を展開することで,自ら行動し協働できる担い手を育成していく。

 

ESDの実践を通して児童に育てたい資質・能力等を次のように設定している。

①  様々な地域や国の食品・食材・料理を通して,文化や自然,環境問題,生産者・消費者の努力や願いについて興味・関心をもち,自ら課題を見付け,進んで情報を選択しながら,その解決に向け調べたり考えたりすることができる。

②  課題解決に向けた活動を通して,自分たちが暮らしている地域の豊かな自然や食材とそれを担う地域の人々の存在に気付き,地元の食文化や風土,環境に誇りをもつことができる。

③ 東日本大震災を踏まえ,命の大切さと未来の気仙沼市や階上地区のあるべき持続可能な姿について,自分なりの意見をもったり行動したりすることができる。

具体的には,「①スローフード(食育)に関わる学習」「②海洋教育」「③環境教育」「④防災・減災教育」等の領域を柱に,総合的な学習の時間を中心に各教科や特別活動などを横断的・往還的に関連させながら取組んでいる。今年度も,コロナ禍の影響により,講師を招いての講話や体験活動,異学年・異校種間での交流の実施が困難な場面があり,計画の変更を余儀なくされることがあった。そのため,体験や交流等の活動は,感染症予防に努めて実施できたものの中から取り上げる。

①スローフード(食育)に係わる学習(全学年)

1年生のサツマイモや2年生の地域の特産品である「茶豆」の植栽活動を通しての学習,3年生の地域のアワビ,ウニ取り名人,イチゴ・野菜栽培から学ぶ学習,4年生の米作りの体験,5年生の水産業に関わる学習,6年生の地元食材を利用した店舗への取材活動等を進めながら,地元食材の豊かさと自然環境,食材に関わる人の努力や工夫等に触れる学習を行った。体験や外部講師の講話等を基に,探究的に調べ,リーフレットやレポートにまとめたり,ポスターセッションで発表したりした。こうして6年間を通して,自然と人とのつながりを知ることで「自然豊かなふるさと階上」を持続可能なものにしていくために何をしなければならないのか,どのように生活し行動していけばよいのかを考え,自分たちの生活や行動を見直すきっかけとなった。

具体的な取組の一例として,1年生はサツマイモ,2年生は地域の特産品である茶豆の栽培や収穫等の体験活動を階上・波路上保育所と交流しながら行い,共に課題に向き合う素地を養う機会とした。この活動は,国語科の物語文などの読み取りや,道徳科の学習の際に想起させ,自然に対する考えや思いを深めさせてきた。4年生では,米作りの観察を通し,収穫の喜びや栽培の大変さ等を味わいながら,自分たちが生活する階上の自然環境の豊かさを感じ取り,生産者の思いを知ることができた。6年生では,地域の寿司店や水産加工場,菓子店等への聞き取りを通して,コロナ禍による影響が様々な地域の生活や経済,労働等の環境にも影響していることに気付いた。これらの児童の気付きを課題につなげ,これまでの学びの文脈に位置付けることで,今後の「持続可能なふるさと」の姿を模索した。他地域(学習旅行先の岩手県盛岡市,滝沢市等)の取組の工夫等と比較することで,未来志向型に学びを方向付けることができた。

②環境(3・5年生)

3年生は,理科の「昆虫のからだのしくみ」と関連させ,6月に,地域の「やじの川」にはどんな生き物がいるのか予想し,生物調査を実施した。自分たちの陸上での暮らしが川の環境につながっていることを知り,川の現状や環境によいくらしについて調べ,その後川の水が流れ着く岩井崎の生物調査の学習へつなげた。この学習から,陸から川,海へとつながっていることを体験的に学び,生物の多様性を感じ,環境保全の大切さを知る学習となった。5年生では,岩井崎での生物調査の際に,講師に気仙沼水産試験場の職員を派遣していただき,磯に棲む生き物たちの生態や環境の豊かさについて講話を聞き,より詳しく磯の生物環境の現状について理解を深めた。また,クリーンビーチ活動を行い,海岸に流れ着いた海洋ごみを調べたことは,自分たちが環境保全のためにできる取組を考えるきっかけとなった。

③海洋教育関係(5年生)

総合的な学習の時間「豊かな海について調べよう」は,社会科の「水産業のさかんな地域」の単元と関連させ,年間を通して階上漁協青年部の協力を得ながらワカメ養殖体験を行うことができた。このことによって,地域の水産業や人々の努力等について課題を設定し,地元の食材と環境とのつながりから持続可能な社会に必要なことは何かについての探究活動を行った。「森は海の恋人」運動の畠山信氏を招いての学習等から,生物にとって望ましい環境にしていくために,自分たちはどのように行動していくべきか,課題を自分ごととして考えた。養殖体験では,10月に種はさみをしたわずか数センチのわかめが,約4ヶ月後には2m近くにも成長することに驚き,働く人々の工夫や努力,自然の豊かさや海の恵みについて,実感を伴う体験となった。

④防災・減災に係わる学習(4年生)~「防災復興マップづくり」~

地域の方々(自治会長等)と一緒にタウンウォッチングを行ったことを基に,防災や復興状況,そして地域のよさの視点から地図にまとめ,発表会を実施した。気仙沼市の総合防災訓練での発表等を通して,地域の方等から意見や感想をもらうことで,さらにマップを改善し地域を知ることにつながった。また,アクサユネスコ防災・減災プログラムと関連させて全国の学校関係者に発表した。これらの活動を通して,日常の中で見落としがちな危険箇所について,地域の方と情報の共有化も図ることができた。また,自分たちの取組が地域の人にとって地域の復興状況や災害への備えについて再確認する機会となった。

来年度の活動計画

【1・2年生】サツマイモや地域の特産品である茶豆の種まき,収穫等の体験的な活動を階上・波路上保育所といっしょに行い,栽培の苦労や収穫の喜びを味わう。また自分たちが生活する本地域の豊かさを感じ取りながら,生産者の方々との交流を図る。

【3年生】「岩井崎」の磯をフィールドに,生態系(生物多様性)とそれを育む海辺の環境(水質等)との関わりに着目し,観察を行う。また農業水路としての川の役割や水生生物等との関わりについて学ぶことで,陸と川,海とのつながりについて学びを深める。さらに「名人発見!ぼくらの階上」では,農業や水産業に従事する方から「地域」と「食」との関わりを学び,明戸虎舞の太鼓・手踊り体験を通して地域の伝統文化に親しむ。

【4年生】米作りの観察学習を通して,自然環境と稲の成長の関わりを学び,生産過程,流通等について理解する。また当地域の暮らしと関連させながら,川の環境から米の栽培に適した自然環境について探究活動を行う。「地域防災マップ作り」を行い,東日本大震災による大きな被害を受け,復興してきた地域の現状を知ることで,危険箇所や避難所等を確認し,地域の防災の在り方について考え,防災意識の向上へつなげる。

【5年生】地域の水産業「ワカメ養殖」に着目し,水産業とくらしのつながり,地元食材と環境のつながり等を課題にして探究活動を行う。岩井崎の生物調査から,海の生物の多様性を感じるとともに,浜辺にごみがあることに気付き,ごみ拾いや分別処理を体験した。また,養殖業の方から「温暖化の影響により,わかめの種が育たない」といった現状から,自分たちの生活を見直していくことの必要性を見付け,「森は海の恋人運動」や外部講師の方から話を聞き,自分たちにできることを考え,「海のフォーラム」の校内発表で提案する。

【6年生】「スローフードを知ろう」では気仙沼市のスローフード推進に関わる方々への取材を行い,実際に取り組んでいる店を訪問する。さらに学習旅行で訪れる岩手県盛岡地方のスローフードの取組や考え方と比較し,学びを深めていく。また「味の方舟」の学習では,未来に残したい食材からメニューを考え,地域の専門家の指導をもらい調理を行う(気仙沼市プチシェフコンテストへの参加)。さらに,2月の「海のフォーラム」では,6年間の食育学習の集大成として,「スローフード」「防災・安全」「自然環境」などの視点から,気仙沼・階上の魅力を未来に伝える取組を考え,提言する。