2022年度活動報告

本年度の活動内容

活動分野

環境

本校は,広島市の中心部から車で約45分,雄大な西中国山地に囲まれた湯来町に所在している。湯来町は,1500年前に,傷ついた白鷺が傷を癒やしているところをみた村人により発見された「湯来温泉」と,1200年前に発見され,江戸時代には藩主浅野公の湯治場として栄えた「湯の山温泉」の2つの歴史ある温泉に加え,ホタルの飛翔の鑑賞,魚のつかみ取り,鮎釣りや神楽など,豊かな自然や伝統芸能でも知られる町である。
本校は,全校生徒12人の小規模校である。豊かな自然の中で湯来町の良さを生かした多くの体験をし,のびのびと過ごし,中学校に入学してくる。このように自然の豊かさを十分生かし,生徒同士はもちろん,生徒と教師,保護者や地域が連携・協働しながら教育活動を展開している。
これらの教育活動の柱として総合的な学習の時間では,「探究的な学習の良さを理解し,自主的に学ぶこと」「知識やスキルを活用し,新しい価値を創造できる力を身につけること」「地域や社会に貢献する喜びを感じる取組を実施すること」の3つを目標に掲げ,3年間系統的な学習を行い,学びを深めている。(表1全体計画参照)

(表1)

『新たな価値を創造し,社会に貢献できる生徒の育成
~総合的な学習の時間を柱として取組む探究学習~』

1. はじめに
本校の学校教育目標は「公の場で通用する生徒の育成」である。この目標を達成するために本校では,総合的な学習の時間を柱として探究学習に取組んでいる。特に本年度は取組を始めて3年目にあたり,コロナ禍の影響はあったが年々充実した取組となってきた。
この公開で取組の一部を紹介することで,読んで下さった方々から多くの感想をいただけることを期待している。

2. 主な取組
(1) 水内川での鮎の放流
5月中旬,水内川漁業協同組合のご協力で,鮎の放流と講義を行う。講義の内容としては,「川や湖に棲んでいる魚」「魚がいる川といない川」「漁協の仕事」等である。
講義内容や放流体験の重要性はもちろんであるが,放流するときに交わす生徒のつぶやきへの水内川漁業協同組合の方の生きた答えの素晴らしさを実感する体験である。

(2)水内川水質調査
水質調査・環境の調べ学習として,水内川の「データの分析と水質階級の判定」と「水内川の水質実態調査」を平成18年から継続している。今年度は,7月に調査に向けた事前学習,5か所の定点観測を行った。この調査を実施するにあたっては,教職員に加え,地域の環境調査に長年携わるともに,本校の生徒にその調査の意義や調査方法,分析方法について3名の特別非常勤講師の方々にご指導をお願いしている。

〇方法
観測地点は下記5か所(図1),調査項目は4項目で,①水温,PH(水素イオン濃度指
数),➁COD(化学的酸素要求量),水中の石を5個拾い,裏をさらい水生生物の➂種類と④個体数を調べている。
①はPHが高いほどアルカリ性が強く,低いほど酸性が強い。➁はCODが高いほど,水質が悪い。➂④は水質が良い川に多い水生生物のAランクで,Bランク→Cランク→Dランクの順に悪くなる。

(図1)

写真はPH(水素イオン濃度指数)(A)と,特別非常勤講師の方々と水生生物の種類と個体数調べを調べている様子(B)である。

(A)               (B)

〇まとめ
① 水温・PH・COD

( )数字は,昨年の数値

➁水生生物

〇全体考察
PH,CODについては,ここ数年PHの中央値は7,CODの中央値は5でほとんど変化がない地点が多かった。しかし,CODが大きく変化し水質の低下が考えられる地点もみられた。水生生物は,水質の良いところに生息するAランクの生物が8割を占めた。一方で,Cランク,Dランクの生物が久しぶりに発見された地点もあった。

以上の点から,概ね水内川の水質は良いが,悪くなっている地点もあることが言える。悪くなっている地点については,一時的なものなのか,部分的なものなのか,調査だけではわからなかった。調査の継続,原因の追究をする必要があると考える。美しい水内川を守るためにも,これからも水質調査を続けていきたい。更に,地域の中にある学校としてこの自然を守り続けていくために出来ることは何かを考えていくことや,この調査結果を地域の方々にも報告し,地域全体で,豊かで美しい自然を守り続けていきたい。
3.シャワークライミング
湯来町にある地域交流センターのご協力で以前実施していたカヌー体験を本年度はシャワークライミングに変更し,実施した。場所は,学校から約10km西,雲出トンネルを抜けた国道488号線沿い。
川の中を歩いたり,滝を登ったり,崖から飛び込んだりする中で,人間には遠く及ばない水の力も感じることもできた。また,貴重な水の話も伺い,言葉を使わなくても,一層水内川を大切に思う気持ちがわき,湯来の良さを実感する体験である。写真は,活動を終えて,川面に浮かび自然の優しさを身体で感じる体験をしている生徒(C),急な崖を登る体験をしている生徒である。(D)

(C)               (D)

3. ふるさと湯来ごはん
「ふるさと湯来ごはん」は湯来で採れた食材を使って,美味しい和食をつくり,いただくという取組みである。この2年間は,コロナ禍の影響で中止となっていた。以前実施していた「湯来の朝ご飯」という取組の伝統を踏まえた上で,湯来の食材を使った献立を生徒が考え,授業の中で生徒が作るように方法を変更して実施した。
献立は現在の高校1年生,中学3年生が考えたもので,食材は水内川漁協様や保護者・地域の方より提供していただいた。調理は家庭科の調理実習で,水内女性会の方々と共に2年生4名が作った。
写真は,女性会の方に鮎の内臓の処理を教えてもらいながら,甘露煮を作っている生徒達(E)と今回の献立メニューの湯来米のごはん,水内川の鮎の甘露煮,湯来産の野菜を使ったおひたしとみそ汁である。(F)

(E)                (F)


4. 本年度のまとめ

総合的な学習の時間の3つの目標,「探究的な学習の良さを理解し,自主的に学ぶこと」「知識やスキルを活用し,新しい価値を創造できる力を身につけること」「地域や社会に貢献する喜びを感じる取組を実施すること」については,生徒達は地域や社会に貢献する事に価値や喜びを見つけ,これからも本年度以上に地域と連携を取って取り組んでいきたいと振り返りに記入していた。しかし,探究的な学習の良さを理解し,自主的に学ぶことや新しい価値を創造できる力については,事前事後の学習や実際の体験の中の様子では目標を達成できたとはいえなかった。今後,目標を達成するために,各教科と関連付けながら知識や学び方を習得させ,3年間の系統性を意識した学習になるように次年度のカリキュラムを検討し,新しい価値を創造する力を培っていきたい。

来年度の活動計画

本校の総合的な学習の時間の取組は,国際社会共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の取組と重なっていることを踏まえ,SDGs「持続可能な社会について考える ⅠⅡⅢ」と題し,湯来町のSDGsに止まらず,SDGsに関係している世界の動きを知り,自分たちが行っていることが,地球環境全体に大きく影響していること,それは今後の「生き方」に大きく関わっている事を生徒に理解させたい。
そのため,令和5年度は,総合的な学習の時間,特活,道徳,各教科にカウンセリングを加え,最終ゴールを「キャリア教育」とし,縦と横をより一層繋がるように取組みを進めていきたいと考えている。

広島市立湯来中学校特活・道徳・総合(キャリア教育)系統図