2022年度活動報告

本年度の活動内容

活動分野

世界遺産・無形文化遺産・地域の文化財等

本校は、世界遺産学習を教育課程に位置付け、低学年より系統的な学習を積み重ねてきた。本校の近隣には、世界遺産「古都奈良の文化財」に含まれる元興寺や興福寺がある。それを活かし、地域に残る「人・もの・こと」を題材として生活科や総合的な学習の時間を中心に、いろいろな場面で世界遺産学習を展開している。これは、様々な視点から地域について自ら調べ、学び、考える学習を積み重ねることで、地域に誇りと愛着がもてるのではないかと考えているからである。そのため、低学年から空間も内容も同心円的に広がるような、地域について学び続けるカリキュラムをつくっている。
まず、1・2年生の生活科において、済美のまちのよさを感じ、そこに住む人たちのやさしさに触れることで『済美のまちに親しむ』。さらに、3年生では、校区の様子を社会科で学習をしたり、総合的な学習の時間では奈良町について学習をしたりしている。また、4年生では、四季を通じて、奈良公園の自然を観察したり、地域の発展に尽くした人を調べたり発信したりする活動などを通じて、『済美のまち・奈良のまちを見つめる』。そして、5年生では、世界遺産見学や世界遺産を守るために自分たちにできることを考えるような学習を行い、6年生では歴史学習をふまえた地域の遺産を探る学習などを通して『済美のまち・奈良のまちについて考える』。
このように、低学年から、空間も内容も同心円的な広がりをもって、教科横断的に地域について学び続けるカリキュラムを計画している。コロナ禍において地域との繋がりが途切れかけた活動もあったが、ウイルスの特性の変化やワクチン接種率の高まりなどから、Withコロナという言葉も生まれ、本校でも今年度から多くの活動が再開できた。改めて地域との繋がりを大切にし、この歴史ある『済美のまち・奈良のまち』に誇りと愛着をもてるよう、子ども達の学びを進捗させたい。

【2022年度の実践から】
1年生
『なかよしさんぽ』
1学期には、入学してすぐに校内や校庭を散歩して、1年生はもちろん学校のみんなとなかよくなり、「わたしの学校」のよさを感じとることができた。
2学期には、遠足で奈良公園へ行き、大仏殿を見学し、間近で大仏様を見ることで、大きさや歴史を感じ、「わたしのなら」のすばらしさに気づくことができた。また、済美幼稚園のお友だちを招き、校庭を散歩しながら「秋みつけ」を楽しんだ。校庭で集めてきた木の葉や木の実を持ちよって、「おもちゃ作り」を意欲的に取り組んだ。
3学期には、地域の人たちから「けんだま」「こま」「お手玉」「はねつき」「あやとり」「ヨーヨー」などの昔の遊びを教えてもらった。その後、済美幼稚園のお友だちを招き、地域の人たちから教わった昔遊びを今度は自分たちが教える側となって、活動に取り組んだ。
「なかよしさんぽ」を積み重ねていく中で、子どもたちは、『ひと・もの・しぜん』となかよくなって、自分の生活を楽しくしていく力を付けてきている。

2年生
『わくわくさんぽ せいびの町』(生活科)
1学期には、済美小学校の周りを歩いて探検に行った。その後、見つけたものや気になるものについて児童で出し合った。学級の全員が知っている場所もあったが、一部の児童しか知らない場所も出てきた。また、今回は通らなかったがぜひみんなにお勧めしたい場所も出てきた。その話し合いをする中で、「行ってみたい。」「もっと知りたい。」「聞いてみたい。」という思いをもつことができた。
夏休みの宿題で、せいびの町のおすすめの場所を調べる活動をそれぞれ行った。2学期にその発表会を行うことで、さらに知りたいという気持ちが高まった。その中から、さらに知りたい場所を9か所に絞り、「からくりおもちゃ館」「京終駅」「ジェラテリアノンナ」「キラメキノトリ」「中央消防署」「ならまち交番」「徳融寺」「糞虫館」「音声館」を詳しく調べることとした。今年はコロナ禍の状況のため、実際に児童がインタビューに各施設に行くことはできなかったが、知りたいことをまとめて教師がインタビューに行き、実際の施設の方の声や様子を動画に撮り、児童に返した。それを見た児童は、施設の方の声を聴き、中の様子を見て、その場所の魅力を感じることができた。そこで知ったことをポスターにまとめ、他のグループの児童に伝える活動を行った。その後、インタビューさせてもらった場所にお礼の手紙を書く活動を行った。これらの活動を通して、せいびの町のことをたくさん知ることができ、児童はせいびの町をより好きになった。

3年生
『もっと知ろうよ せいびの町を』(社会科・総合)
1学期の「わたしのまち みんなのまち」の学習で、自分たちが住んでいる済美の町を校舎の屋上から見下ろし、どの方角にどのような建物があるかを観察した。そして、済美の町の様子をもっと詳しく知るために、「せいびの周りの土地・人・交通ちょうさ!」と題して、校区探検を行った。「北側コース」と「東側コース」の2つのコースに分けて探検した。実際に自分の足で歩いてみることで、それぞれのコースによって土地の使われ方や人の様子、聞こえる音までもが違うことに気付くことができた。「北側コース」では、JR奈良駅の周りは人が多く、ホテルや店が立ち並んでいることや、三条通りには昔からの土産物店が並び、にぎやかな様子を感じとることができた。また、「東側コース」では、北側とは雰囲気が全く違い、古い長屋が立ち並び、閑静な様子を知ることができた。ならまちの「格子の家」にも見学に伺い、長屋の特徴や、ならまちの歴史についても学ぶことができた。探検に行った後は、見つけた物や特徴を表と拡大地図にまとめた。その後、済美の町と奈良市の他の地域とを比べ、済美の町の歴史的価値について気付くことができた。

『せいび小学校と地域のようすのうつりかわり』(社会科・総合)
2学期には、社会科「奈良市のようすのうつりかわり」で奈良市の昔の様子を調べた。約100年前には9年間しか走っていなかった大仏鉄道があったことや、西奈良には昔は森林が広がっていたこと、人口が増えるにつれ、線路や高速道路、国道が新たに整備されたり、公共施設の数も増えたことなど、奈良市のうつりかわりについてたくさんの気付きがあった。秋の遠足では、奈良県立民俗博物館に行き、昔のくらしの道具に触れることができた。今の便利な家電と比べ、昔の人の大変さ、工夫に気付いたり、古民家でかまどを炊く様子を見せてもらい、昔のくらし方に興味を持つことができた。学校に帰ってから、タブレットで撮った道具の写真をもとに、昔の道具カードを作った。それを年表に貼り、道具の変化の様子が一連で分かるようにした。さらに、済美小学校と済美校区のうつりかわりについても調べた。大正時代の児童や教員の写真を見て、今との違いに驚いたり、木造校舎が全焼し、しばらく近隣の小学校に通っていたことを初めて知ったり、戦中の卒業生の手記を読んで、不自由なく学校で勉強できることのありがたみを感じたり、時代の変化とともに変わっていく学校の姿に興味を持つことができた。また、昔の済美校区の様子をよく知る京終駅のコミュニティ駅長である丸山さんと、済美小学校出身の奥様にゲストティーチャーとして来校していただき、講演をしてもらった。昔の校舎内外の写真や児童の様子を見ながら、どんな学校生活を送っていたかを聞いたり、昔の京終駅は奈良県中の配送の拠点であったこと、巨大な青果市場や安全策道があったことをさらに知ることができた。最後に、奈良市の移り変わり、済美小学校の移り変わり、昔の道具の移り変わりを、1つの年表にまとめた。

4年生
『奈良公園の自然観察(講義)』(理科・総合)
『奈良の鹿愛護会(講義)』(総合)
『秋の遠足(奈良公園)』(校外学習)
『人とシカの共生』(総合)
ゲストティーチャー(自然博士・谷氏)を呼び、体育館で奈良公園の自然について写真等を見ながら講義を聞く予定であったが、谷先生が体調をくずされ講義に来てもらえなかった。その代わりに、丸井校長先生が講義をしてくれた。講義後、奈良公園にある自然の中でも児童にとって身近な存在であり、人間と関わりの深い鹿に学習のテーマを絞り、さらに学習を進めた。初めに奈良公園の鹿について、これまでの生活経験を通して知っていることや講義を受けて知ったことについて意見の交流を行った。「ごみを食べて死んでしまう鹿がいる。」、「鹿せんべいを食べている。」、「道路や住宅地に出てくる時がある。」、「角が生えかわる。」等の意見が出た。
その中からもっと知りたいことや調べてみたいことを自由に選び、個人でタブレットを用いた調べ学習を行った。調べた結果を児童同士で交流し合い、児童は奈良公園の鹿について、より一層興味を持つことができた。次に、「病気になる鹿がいる。」という意見を手がかりに、鹿と人との間に起こる問題について学習を進めた。調べていく中で、「交通事故に遭い、死んでしまう鹿がいる。」、「人間が捨てたゴミを食べて病気になってしまう鹿がいる。」等の鹿が人から受ける被害だけでなく、「農作物を食べ、畑を荒らされてしまう。」「鹿に攻撃されてケガをする。」などの人が鹿から受ける被害もあることに児童は気づいた。
この学習を通して、「人と鹿はいろいろなトラブルもあるけれど、同じ生き物なのに、殺したり、怒られたりするのはおかしいと思う。もっと鹿の気持ちを考えて鹿と触れ合ってほしい。私も鹿のことを考えて楽しく触れ合いたい。」という、鹿を守ろうとする発言が出た。また、「鹿を怒らないようにしたい。」など、自分にできることは何かを考えようとする児童の姿も見られた。
このことから、次時以降奈良の鹿を守るために、何かできることはあるかを考えることになった。まずは、調べて分かったトラブルについて自分にできることを考えた。「ルールを守って触れ合う。」、「野菜(人間の食べ物)をむやみやたらとあげない。」、「ゴミのポイ捨てをやめる。」等の意見が出た。さらに、鹿の愛護団体があることや鹿を保護するための啓発活動が行われていることを知った。
鹿と人の間で起こる問題について、タブレットで調べ学習をした後、奈良の鹿の愛護会の活動について紹介し、実際にゲストティーチャーとして呼び、講義を行っていただいた。明治24年から奈良の鹿を保護しようとする取り組みがあったことや昔から奈良の鹿は大事にされてきたことに驚いている児童がたくさんいた。また、ふり返りの中に「自分達も鹿を守りたい。」、「自分にできることをしたい。」、「鹿は奈良にとって大事な存在なんだな。」と記述する児童が多く見られた。
秋の遠足では奈良公園に行き、観光客が鹿せんべいをじらしてあげていたり、鹿せんべい以外の食べ物をあげていたりするのを目の当たりにして心を痛めている児童がいた。奈良公園から学校までの帰り道、自らごみを拾って帰って来た者もいた。「母鹿を不安にさせてはいけないということを学習していたので子鹿には、近づかないようにした。」とも話をしていた。鹿の様子や人と鹿との関わり方を実際に目にすることで、鹿と上手く付き合うにはどうすればよいのかをしっかりと考え、実践しようとする様子が伺えた。
遠足終了後、児童の「鹿を守りたい。」という思いを基に、鹿と人が共生していくために自分にできることについて考えた。児童からは、「ポスターを作る」「ゴミを捨てない・ゴミを拾う」「鹿の現状を知る」等の意見が出た。そこで「奈良のシカ見守りプラン」を各自で考え、鹿と人とが共生するために、①自分にできること、②その理由、③共生のために必要な心構えについてポスターにまとめた。鹿に関する学習を通して、鹿も人と変わらず命があり、昔から大切にされてきたことを知り、鹿だけが我慢することのないように、できることを自分達で考えて鹿のためにしていきたいという思いを児童はもつことができた。

5年生
『世界に誇る奈良の遺産「世界遺産」』(総合)
奈良にはたくさんの文化財があることをきっかけに、「世界遺産」について考えることから学習をスタートさせた。世界遺産とは、どのようなものであるかを調べ、「過去から現在、未来へと引き継がれていくべきかけがえのない宝物」として世界中の人々から大切にされていることを知った。具体的にどのようなものがあるのかを、タブレットを活用し調べる中で、自分のお気に入りの世界遺産を見つけた。見つけた世界遺産の場所(国)、名前、お気に入りのポイントなどをロイロノートを使って、全体で交流し、世界遺産への興味、関心を高めた。
次に、奈良にも「古都奈良の文化財」として東大寺・興福寺・春日大社・春日山原始林・元興寺・薬師寺・唐招提寺・平城宮跡が世界遺産に指定されていることを知った。そこで、自分たちの近くにある世界遺産に行ってみたい。実際に見てみたい。知りたいことがある。との声から、正倉院・国立博物館・春日大社に見学に行くことにした。見学前に、事前学習として、タブレットと副読本を使い、各場所についての調べ学習を行った。また、児童一人一人が各場所で知りたいことや見てきたいことを考え、出し合った。
その後、現地見学に行った。まず、正倉院では、成り立ちや歴史、残されている建物や宝物について話を聞いた。児童は、世界遺産の建物を目の前に1300年の歴史を感じるとともに、見たもの聞いたことから、正倉院がいろいろな人の思いで受け継がれてきたことに気づいていた。国立博物館では、仏像の秘密についてクイズをしながら多くのことを知れた。これにより、興味を高めていた。最後に、ボランティアガイドさんとともにグループごとに春日大社の見学を行った。春日大社の成り立ちや歴史、本殿などの建物だけでなく、周りの自然についても話を聞きながらフィールドワークを行った。ここでも、歴史の面白さだけでなく、春日大社が現在も残っているのは、人々の思いや願いがあることを知ることができた。
現地学習で感じた世界遺産の素晴らしさをたくさんの人にも伝えたいという想いから、コマーシャルづくりを行った。「世界遺産の美しさ」「世界遺産が受け継がれてきたのは人々の思いがある」「これからも大切にしたいから世界遺産に指定された」など児童一人一人のメッセージが伝わるよう、情報を集め、整理し、画像や言葉の効果を考えながら作成した。ここでもロイロノートを活用し、作成の工夫やコマーシャルの展開などを考える際には、全体で交流しながら取り組んだ。完成したコマーシャルを学級ごとに「古都奈良の世界遺産CM鑑賞会」を開催し、一人一人の思いを伝える機会にした。

6年生
『未来に残したい美しい奈良の風景を見つけよう』(総合)
6年生の児童は、これまで低学年から「町たんけん」や「奈良の伝統行事」、「奈良公園自然観察」など、地域の「人」「もの」「こと」を題材にして済美校区や奈良の良さを見つける学習を積み重ねてきた。
そして、江戸時代、奈良の観光名所として知られていた南都八景をもとに、未来に残したい美しい奈良の風景として現在の奈良県や済美校区の美しい風景を調査し、新しく私たちの「新南都八景」として選定を行った。まず、「南都八景」について調べ学習を行い、なぜ、南都八景としてその風景が選ばれたのか調べた。東大寺の鐘楼のように、風景だけが素晴らしいということではなく、鐘の音色や堂々とした姿などの美しさも南都八景として選ばれたわけの1つであるのではないかということに気づくことができた。また、現在はもう残っていないものや失われたものもあることにも気づき、美しく素晴らしい風景を残すために私たちにできることを考えようとする児童もいた。次に、「新南都八景」の選定に向けて、風景だけでなく、音やそのものの様子にも注目し、自分たちの知っている奈良県内の名所を挙げた。その後、家庭や校内で奈良の名所をたずねる調査も行った。みんなで出し合った名所や調査の中で新しく発見した名所などから、自分が未来に残したい風景だと思う場所を選び、調べた。その良さについてロイロノートスクールを活用し、1人1人プレゼンテーションを行った。
奈良の美しい風景を調べる学習の中で、新たな奈良の魅力に気づいたり、自分たちの住む地域や場所に愛着を持つことができたりした。また、「南都八景」のようになくなっていくものがある中で、現在、自分たちが美しいと感じる風景やものを自分たちが守っていかなければならないという思いをもち、素敵なものであるということを他の人にも伝えていくことが大切だという考えをもつことができた。

来年度の活動計画

1年「なかよしさんぽ」(生活科) 隣接する幼稚園や地域の方々とも連携し、済美の町や奈良公園へ出かけ、四季の移り変わりを感じる。
2年「わくわくさんぽ せいびの町」(生活科) 身近な地域の施設や店など探索し、そこで働く人達に話を聞いて地域を学習する。
3年「もっと知ろうよ、済美の町を」(社会科・総合) 校区には、多くの観光客が訪れる奈良町があることを知り、それらの良さを理解する。
4年「人とシカの共生」(理科・総合) 調べ学習だけでなく、ゲストティーチャー(自然博士・谷氏)による奈良公園の自然について講義を受けたり、実際に奈良公園へ赴いたりし、その自然の不思議さや奈良の鹿について観察や調査を通して理解を深める。
5年「世界に誇る奈良の遺産『世界遺産』」(総合) 世界遺産を含む多くの奈良の文化財を次の世代へ残し繋いでいく主体は自分たちであることに気付く。
6年「未来に残したい美しい奈良の風景を見つけよう」(社会・総合) 江戸時代にあった「南都八景」を調べることから始まり、現在の奈良県や済美校区の美しい風景を調査し、「新南都八景」として選定を行い、広く発信していく。奈良の美しい風景を調べる学習の中で、自分たちの住む地域や場所への愛着を育む。