2020年度活動報告

本年度の活動内容

活動分野

生物多様性, 海洋, 減災・防災, 気候変動, エネルギー, 環境, 福祉, 持続可能な生産と消費, 食育

本校では,「食」を通して地域を見つめ,持続可能なふるさと階上の未来を描く児童の育成を図るために,気仙沼市のスローフード都市宣言のもと,2002年に「階上小学校スローフード宣言」を発出した。全学年が「食」についての課題を見付け,地域と関わりながら系統的に学習を進めている。地域の「食」について学んでいく中で,自分自身の生き方や将来の地域のあるべき姿(持続可能なふるさと階上)について深く考える力を育てたいと考える。また,2015年より「海洋教育」の取組も始まったことから,「環境」「地域の特色」「町づくり」「防災」などを海と関連させて,考えさせる。こうして持続可能なふるさとを担う人材の育成を図っている。これらの学習は,公民館のプラットフォーム事業と連携し,保育所・中学校・高等学校との異校種間交流を図りながら実施することで,地域と学校双方の発展にもつながる。これらの体験的,課題解決型の地域学習の実践を通して,「理想とする未来社会」「持続可能な地域社会」の実現に向け,一人一人が課題を設定し,解決方法を考え,行動・発信する探究的な学習活動を展開する。

ESDの実践を通して児童に育てたい力等を次のように設定している。

○様々な地域の食品・食材・料理について興味・関心をもちながら,その地域の文化や自然,環境問題,生産者・消費者の努力や願い等について,自ら課題を見付け,進んで情報を選択しながら,その解決に向けて調べたり考えたりすることができる。

○課題解決に向けた活動を通して,自分たちが暮らしている地域の豊かな自然環境とそこで生産される食材,地域の人々との関わりの大切さに気付き,地元の食文化や風土,環境に誇りをもつことができる。

○将来の気仙沼市や階上地区のあるべき姿について自分なりの意見をもったり,行動したりすることができる。

具体的には,「①スローフード(食育)に関わる学習」「②海洋教育」「③環境教育」「④防災・減災教育」等の領域を柱に,総合的な学習の時間を中心に国語,理科,社会科等の各教科や特別活動などを横断的に関連させながら取組んできた。今年度は,コロナ禍の影響により講師を招いての講話や異学年,異校種間での交流の実施が困難となった。そのため,体験や交流等の活動は,感染症予防に努めて実施できたものの中から取り上げる。具体的には,以下の内容となる。

①スローフードに係わる学習(全学年)

1年生のサツマイモや2年生の地域の特産品である「茶豆」の植栽活動を通しての学習,3年生の地域のアワビ,ウニ取り名人から学ぶ学習,4年生の米作りの活動,5年生の水産業に関わる学習,6年生の地元食材を利用した店舗への取材活動等を進めながら,地元食材の豊かさと自然環境,食材に関わる人の努力や工夫等に触れる学習を行った。体験や講師の先生の講話等を基に,探究的に調べ,リーフレットやレポートにまとめたり,ポスターセッションで発表したりした。こうして6年間を通して,自然と人とのつながりを重視し「自然豊かなふるさと階上」を持続可能なものにしていくために私たちは何をしなければならないかを考え,どのように生活し行動していけば良いかを考え,自分達の生活や行動を見直すきっかけとなった。具体的な取組の一例として,1年生はサツマイモ,2年生は地域の特産品である「茶豆」の栽培や収穫等の体験活動を階上・波路上保育所といっしょに行った。しかし,今年度は感染拡大期を避けて,収穫時にのみ交流を実施した。植栽活動を通して,協働で取り組むことにより,共に課題に向き合う素地を養う機会となっている。活動は,国語科の物語文「おおきなかぶ」などの読み取りや,道徳科の「生き物にやさしく」の学習の際に想起させ,考えや思いを深めさせた。観察を通し,栽培の大変さや収穫の喜びを味わいながら,自分たちが生活する階上の豊かさを感じ取り,生産者の思いを知ることにつながった。6年生では,地域の寿司や水産加工場,菓子店等への聞き取りを基に,コロナ禍による影響が様々な地域の生活や経済,労働等の環境にも影響していることに気付いた。これらの児童の気付きを課題に取り入れ,これまでの学びの文脈に位置付けることで,今後の「持続可能なふるさと」の姿を模索した。新型コロナウイルス感染症に対応していくために,地域での取組や他地域(学習旅行先の岩手県盛岡市,滝沢市等)の取組の工夫等と比較することで,未来志向型に学びを方向付け活動した。

②環境(3・5年生)

3年生は,7月に,地域の「やじの川」にはどんな生き物がいるのか予想させ,生物調査を実施した。自分たちの陸上での暮らしが川の環境につながっていることを知り,川の現状や環境に良いくらしについて調べ,壁新聞等にまとめて発表した。また,陸から川,海へとつながっていることを体験的に学ぶために,学区内の岩井崎の海岸で磯に棲む生物調査を実施した。豊かな磯の生物多様性を感じる活動となった。

5年生では,岩井崎での生物調査の際に,講師に気仙沼水産試験場の職員を派遣していただき,磯に棲む生き物たちの生態や環境の豊かさについて講話を聞き,より詳しく磯の生物環境の現状について理解を深めた。また,海岸に流れ着いた海洋ごみを調べ,クリーンビーチ活動を行い,自分達が環境保全のためにできる取組を考えるきっかけとなった。

③海洋教育関係(5年生)

総合的な学習の時間「豊かな海について調べよう」では,ワカメ養殖体験を通して,社会科の「水産業のさかんな地域」の単元と関連させ,地域の水産業や暮らしに着目し,地元の食材と環境とのつながりから持続可能な社会に必要なことは何かについての追究活動を行った。岩手大学梶原准教授の「ホヤの生態と海の環境」についての学習,「森は海の恋人」運動の畠山氏を招いての学習などから,生物にとって望ましい環境にしていくために,自分たちはどのように行動していくべきか,課題を自分ごとにして考えた。海を利用するという活動では,「わかめの養殖体験」を,年間を通して実施している。働く人々の工夫や努力,自然の豊かさや海の恵みについて探求活動を行い,10月に種はさみをしたわずか数センチのわかめが,半年後には2m近くも成長することに驚き,実感を伴う体験となった。

④防災・減災に係わる学習(4年生)~「防災復興マップづくり」~

地域の方々(自治会長等)と一緒にタウンウォッチングを行ったことを基に,防災や復興状況の視点,そして地域の良さの視点から地図にまとめ,発表会を実施した。今年度は,コロナ禍の影響で保護者や地域の方へ総合防災訓練の機会を通して,直接発表することはできなかった。しかし,アクサユネスコ防災・減災プログラムと関連させて全国の学校関係者の方や自治会長の方々に発信した。この活動を通して,日常の中で見落としがちな危険箇所をじっくりと見ることで,地域の方と情報の共有化も図ることができた。子どもの気付きから地域の復興状況や災害への備えについて再確認する機会となった。

来年度の活動計画

(新型コロナウイルス感染症の感染状況に応じて,変更の可能性もある。)

【1・2年生】サツマイモや地域の特産品である「茶豆」の種まき,収穫等の体験的な活動を階上・波路上保育所といっしょに行い,栽培の苦労や収穫の喜びを味わう。また自分たちが生活する本地域の豊かさを感じ取りながら,生産者の方々との交流を図る。

【3年生】「岩井崎」の磯をフィールドに,生態系(生物多様性)とそれをはぐくむ海辺の環境(水質等)との関わりに着目し,観察を行う。また農業水路としての川の役割や水生生物等との関わりについて学ぶことで,陸と川,海とのつながりについて学びを深める。さらに「名人発見!ぼくらの階上」では,農業や水産業に従事する方から「地域」と「食」との関わりを学ぶ。

【4年生】地域の水田をフィールドに「米作り」を行う。米作りを通して課題を設定し,観察学習を通して自然環境と稲の成長の関わりを学び,生産過程,流通等について理解する。また本地域の暮らしと関連させながら米の役割を考え,探究活動を行う。また東日本大震災による大きな被害を受けた本地域では,持続可能な地域社会を担う人材育成が必要とされることから,「地域防災マップ作り」を行い,地域の方と学区内を歩き,危険箇所や避難所等の確認し,地域の防災のあり方について考える。児童が作成したマップの発表に対して地域の方々からアドバイスをもらい,完成度を高める。

【5年生】「ワカメ養殖」など地域の水産業に着目し,水産業とくらしのつながり,地元食材と環境のつながり等を課題にして探究活動を行う。岩井崎の生物調査から,海の生物の多様性を感じると共に,浜辺にごみがあることに気付き,ごみ拾いや分別処理を体験した。また,養殖業の方から「温暖化の影響により,わかめの種が育たない」といった現状から,自分達の生活を見直していくことの必要性を見付け,東京海洋大学や「森は海の恋人運動」などの講師の方から話を聞き,自分たちにできることを考え,「海のフォーラム」の校内発表で提案する。

【6年生】「スローフードを知ろう」では気仙沼市のスローフード推進に関わる方々への取材を行い,実際に取り組んでいる店を訪問する。さらに学習旅行(修学旅行)で訪れる岩手県盛岡地方のスローフードの取組や考え方と比較し,学びを深めていく。また「味の方舟」の学習では,未来に残したい食材からメニューを考え,地域の調理のプロの指導をもらい調理を行う。更に,「海のフォーラム」では,6年間の食育学習の集大成として,「スローフード」「防災・安全」「自然環境」などの視点から,気仙沼・階上の魅力を未来に伝える取組を考え,提言する。